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リア充なはずのパワーカップルの間で広がるプライベート・カウンセリング

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イメージ/©︎olimpic・123RF

新型コロナウイルスのパンデミックが始まって、職場のコミュニケーションが大きく様変わりしました。会議・飲食・外出の制限が当たり前となって、物理的にも人と距離を保たなくてはならないようになりました。このことによって言い知れぬ孤立感・自己疎外感が誰の心にも忍び寄っているといっても過言ではありません。

こうした状況はメンタルヘルス(心の健康)に少なからず影響を及ぼし、人々の関心もこれまで以上に高まっていると思います。

今のコロナ禍において、そして、コロナ後を心穏やかにどう生きればよいかを考えていきます。

コロナ禍の在宅ワークで不安定になった妻

メンタルヘルスというと、メンタルクリニック、心療内科がまず浮かぶと思います。しかし、最近ではこうした保険治療と違うプライベートなカウンセリングを望まれて、訪れる方が増えています。

「クリニックだと、保険に入れなくなるかも知れないと思って、カウンセリングに来ました」

男性はカウンセリングルームのソファに腰掛けると即座にそう話し始めました。

「確かに心療内科などでの治療歴があると、生命保険に入りにくいといった話を聞くことはありますが、それが理由でお越しになったのですか?」

男性「ほんとうはここへ来た方がいいのは、うちの嫁のほうかも知れない」

「嫁さんとおっしゃるのは、奥様?」

この10年余り、関西の芸人さんの影響なのか、妻のことを「嫁」と呼ぶことがすっかり定着しています。そんなちょっと余計な質問をすると「そう、嫁のことなんです」と男性は答えます。

男性の年齢は、37歳。黒のタートルネックと紺色のジャージージャケット、腕にはクロノマットの高級腕時計というスタイリッシュな出で立ちのビジネスパーソン。いわゆる世帯年収1500万円超のパワーカップルです。

次ページ ▶︎ | うちの嫁、地雷なんですよね…

「奥様のほうにカウンセリングを受けたほうがいいんじゃないか?と感じてらっしゃることがあるんですね」

男性「うちの嫁、地雷なんですよね」

「地雷といいますと、すぐに怒り出すとか?」

男性「そうなんです。何が気に入らないのか、全く予想がつかない。僕は料理が趣味なので、この間は舞茸の炊き込みご飯を作って、それを一緒に食べていたら、急に機嫌が悪くなったので、『どうしたの?』って聞くと、『自分は何もできてないって思った』と言うんです。とくに何かあったわけでもないのに、それで驚いちゃって」

「ご飯を作ってもらって食べていても、それが嬉しくない。逆に自分を責めている? 」

男性「とくに彼女は在宅ワークになってからのほうが仕事が忙しくなって、夜遅くまで仕事をしているし、休日も業務連絡が入るSNSから目が離れない……。コロナになってから外に出ることも少なくなって美容室に行かなくなったみたいで、髪が伸びたねっていったら、『気にしていることズケズケいうな』ってムッとされてしまって。それからは自分も仕事から帰って、家のドアを開けるとき、また、嫁の機嫌が悪くないか気になって、ため息が出るようになってきましたね。それで最近、眠れない日が増えたと思います。僕のほうも余裕がないのかな」

自分の本音を口にできない夫が抱いた不安


イメージ/©︎yurolai・123RF

男性の話によれば、奥様は34歳。コロナ以前からキャリアアップを目指すか、子どもを作るかで悩んでいたといいます。しかし、コロナが広がるなかで、奥様の上司が、突然、ドロップアウト。管理職のポストが空席になり、役員直々にそのポストに就けるようにと叱咤激励され、これまで以上に仕事に取り組むようになったと男性は話します。

次ページ ▶︎ | メンタルクリニックや心療内科への受診履歴があると、保険に加入しづらくなる? 

男性「嫁は、何ごとにも力が入るほうなんですね。正直、自分は子どもがほしいなって思うけれど、今の状態では、そんな話を切り出すどころじゃないんです」

この男性の心が落ち着かない一番の理由は、奥様のイライラだけでなく、ここにあったのでしょう。つまり、自分は本当に望んでいること、いいたいことを口にできないということです。

「確かに、タイミングを考えないといけませんね」

男性「それでいろいろ考えて、思い切って、家を買おうかと。今は賃貸ですが、3LDKのマンションにしようかと。そのついでに子どもの話もしてみようかと……。でも、本当にそれでいいのか?って不安もあるし、そんなこと考えていたら、夜眠れなくなって。それにメンタルクリニックに行くと、住宅ローンの団体信用保険が頭をよぎって困ったなと思って、それで、カウンセリングに来てみたんです」

実は、この男性のようにメンタルクリニックや心療内科への受診履歴があると、生命保険、とくに住宅を購入する際に加入する団体信用保険の契約ができなくなることを危惧して、プライベート・カウンセリングに来られる方が多くなっています。

実際、メンタルクリニックや心療内科への受診履歴があると、保険に加入しづらくなるようです。なかでもこのご夫婦のようなパワーカップルは収入もあるため、プライベートなカウンセリングを希望されるのです。

「妙案だと思いますよ。余裕がなくなったように見える奥様とどう向き合って、将来のことを話し合えばいいか、簡単なようで、難しいことですからね。そんなとき、買い物など、話題をモノの話から切り出すのが話しやすいと思います。そして、奥様に少しゆとりがあるといいんじゃないかって伝えるほうがいいですね。『疲れている』とか、『イライラしているみたいだ』って言うと、余計、腹が立つものですから(笑)。そのうえで日常から視線が切り替わったときに、子どものことも少しだけ触れてみては」

私はこう男性に伝え、日常生活での奥様との向き合い方、ご自分の気持ちの切り替え方など、アドバイスしてカウンセリングをクローズしました。

次ページ ▶︎ | 摩擦を生むフレーズ「そんなこと自分で考えてよ」 

夫婦での暮らしで片方に余裕がなくなった場合は、このケースでは夫から妻になりますが、余裕のない方に対する会話では、さほど重要でないことの質問を極力減らすようにアドバイスします。

例えば、休日の昼食などでは「何にしようか?」と聞かず、「ハイ、炒飯」といって、そのまま食事を出すといったことです。些細なことでも余裕がない状態で質問すれば、そのことに答えを出すという“労力”が生じます。

すると、「そんなこと自分で考えてよ」というような、答え方になりそれがまた摩擦になります。つまり、「選択する」という労力を減らすことで、相手の気持ちにゆとりが生まれるということがよくあるのです。

妻は先の先を見据えて、夫に見切りつけている

先の見通しを立てて計画的に物事を進める、危機をいち早く察知して対処する能力は、ビジネスを進めていくには必要な資質です。

しかし、長引くコロナ禍では、買い物や外食などによって生まれる心の余裕を失わせ、目の前の仕事やコロナといった問題だけに向き合いそれがかえって空回りしやすい要因になっているかもしれません。日常の楽しみは、単なる消費ではなく、視点を切り替えたり、直感的に行動するための大切な機会であったのです。

結局のところ、このカップルは、マンションの購入は避け、賃貸の3LDKに引っ越しました。都心の下町でレストランやカフェ、スポーツジムがあるところで、気軽に気分転換がはかれる場所を選びました。

しかし、30代前半の妻が、自から子どものことを切り出さないのは、夫に見切りをつけていることも多いのです。また、こうしたケースではマンションを買った途端、妻が転勤になり、そのあと男性に別の女性ができ、子どもができて離婚するケースや、マンションを買った途端、夫がコロナによる減収で、妻の収入で生活するという想定まで、妻は、男性とまったく違うことをイメージしていることもよくあります。

個人の疾病を治すメンタルクリニックでは、夫や妻といったそれぞれの話を聞き、疾患なのかそうでないのかを見極めます。

一方、プライベート・カウンセリングでは、場合によってはご夫婦2人で来ていただき、それぞれのお話をうかがったうえで、さまざまなご提案をすることもあります。

夫婦のありようを中立的な立場で一緒に考える――プライベート・カウンセリングだからできることでもあります。

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この記事を書いた人

公認心理師 博士(医学)

大手不動産会社で産業保健活動を行う一方、都内で親子や夫婦の関係改善のためのプライベートカウンセリングを実践している。また、最近は、Webカウンセリングも行い、関東甲信越や東北地方の人たちとのセッションにも力を入れている。

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